カーボンニュートラルの実現を見据え、多くのものづくり企業がサーキュラーエコノミーに向けた取り組みを行う中、積極的に製品にリサイクル材を使用することが求められています。
近年、お客様から当社に対し、リサイクル材を用いた製品の開発や技術ノウハウの提供を求める声が多く寄せられています。その中には「リサイクル材を使用しなければならないと分かってはいるが品質的な不安がある」「カーボンフットプリントの低い材料を使いたい」「製造工程で発生する廃棄物を削減したい」などの課題感や不安、要望が含まれます。
そうしたお客様の課題を解決するため当社が新たに始めた「リコンパウンディング・サービス」は、お客様の製造工程で発生する成形端材(スプルーやランナーおよびその粉砕品)を廃棄することなく、新たな「製品」であるリサイクル材に生まれ変わらせる取り組みです。従来の単純な工程サイクル(リグラインド)とは異なり、お客様と協力して成形端材を品質管理し、当社が長年培った製造技術を用いながら、工程管理ならびに厳しい検査を経てリサイクル材を製造します。このリサイクル材は、お客様が抱えていた品質に対する不安を払拭できるものです。このリサイクル材を原料の一部に用いることで、製品の品質や機能を維持しながらバージン材の使用量を削減することができます。そのため、当社にとっても新たなビジネスチャンスになります。
また、このリサイクル材を活用することで、製品中のカーボンフットプリントの削減にも繋がるほか、これまでお客様が処理に困っていた成形端材の廃棄を減らすことも可能です。
当社はこれ以外にも、他の素材と混ざり単一素材での回収が難しい使用済みエンプラのリサイクル実現に向けた研究開発も行っています。具体的には、ケミカルリサイクル、エネルギーリカバリー※2、燃焼時に発生するCO2の再利用技術などの検討が進んでいます。こうした取り組みを通じて、将来的には当社のすべてのエンプラでリサイクルソリューションを提供することを目指します。
ポリプラスチックスは、POMを3Dプリンターで造形する技術を確立したことで、お客様の製品開発プロセス短縮とそれに伴う使用エネルギーの削減、さらには製品製造時の材料使用量と発生するエンプラの廃材量の大幅な削減を実現しました。
これまでは、複数回にわたる修正を重ねながら金型を製作し、お客様の試作品開発を行っていました。そのため金型の製造や保管にかかる工数とコストが多く発生し、また、機械の稼働時にエネルギーも多く消費していました。しかし、3Dプリンターは金型が不要になるため、こうしたコストやエネルギーを大幅に削減することができます。さらに、スプルーやランナーが発生せず廃材の削減につながるほか、必要最小限の材料で製造することができるため、金型成形や切削加工による製造と比較すると、条件によっては材料使用量を2分の1に減らすことも可能です。
POMは3Dプリント造形中に発生する反りや収縮を制御することが難しく、3Dプリンターを用いた造形はこれまで実現できていませんでしたが、独自の材料開発と材料押出法による試験を重ね、最適な条件を確立することに成功しました。当社は、将来的な3Dプリント対応可能な樹脂の種類の拡大に向けて、PBT、PPS、COCといった他の樹脂においても研究開発を進め、お客様の目的や用途に合った材料で持続可能な製品づくりを支えていきます。
当社は、植物由来の再生セルロース長繊維で強化したPLASTRON® LFTを製造しています。
2022年度はこのPLASTRONについて、製造時のCO2排出量がより少ない「低GHGEグレード」の開発に成功しました。
PLASTRON® LFTセルロース長繊維強化樹脂は、バイオマス原料のセルロースを使用しているという点で、環境にやさしい製品です。しかし、その再生セルロース繊維の製造プロセスにおいて、複数の煩雑な工程が必要なため、各工程で発生するCO2排出量が多いことが課題でした。
そこで当社は、「溶剤法」と呼ばれるシンプルな手法で製造される再生セルロース繊維を使うことで、従来品と比較して約40%のCO2排出量を削減したセルロース長繊維強化樹脂を開発しました。
「溶剤法」は、CO2排出量を減らすことができるだけでなく、一度使用した溶剤を廃棄物として排出することなく製造工程で使い続けられることからも、環境にやさしい生産プロセスです。従来法は、セルロース、溶剤、複数の薬剤を使用するのに対し、溶剤法は、セルロース、溶剤、水のみを使用するため、廃棄物はほとんど発生しません。このように、今回新たに開発した低GHGEグレードは製造時の廃棄物がほぼゼロである上に、強化材として使用すると、ガラス繊維強化樹脂とほぼ同等の強度を持つことから、環境性と機能性を両立した樹脂です。当社はこれからも、環境に配慮した製品ラインナップを拡大し、お客様の持続可能な製品づくりに貢献します。
当社はエンプラの専業メーカーとして、お客様の製品の構想段階から量産までのあらゆる場面で、材料開発支援、加工支援、性能評価 などの技術支援を行ってきました。その知見を活かし、お客様の製品開発の各段階で生じるCO2 、廃棄物の削減を実現するためのさま ざまな環境技術支援を提供しています。
成形中の収縮によって成形品の内部に発生する気泡は「ボイド」と呼ばれ、成形不良の原因となり製品開発時における廃棄物の増加につながります。従来は、射出成形機から金型内に射出された樹脂の充填の様子を解析する流動解析を基に予測解析が行われていましたが、精度面で課題が多くお客様からはより高い精度の解析技術を望む声が寄せられていました。今回当社では、流動解析と構造解析を組み合わせることで、樹脂が固化する過程での収縮率や弾性率、圧力の分布を基に、成形品内部に発生するひずみからボイドの発生を予測する全く新しい手法を開発しました。
金型で成形起工を行う前に高い精度でボイドの発生予測ができるため、不良品の発生をなくし廃棄物の削減に貢献します。将来的には非強化系のPOMにとどまらず、強化系樹脂やPBT、PPSといった他の樹脂においても技術開発を進めていきます。
成形中に発生するガスは成形不良品を生む要因であり、ひいては製品廃棄物、生産に要するエネルギーロスの大きな原因となります。これまでは、発生したガスを金型や成形機側から逃がす発想でのアプローチが多く、具体的な解決策はほとんどありませんでした。当社は成形時のガスによるトラブルの原因究明を行うため、成形時の発生ガスを評価する新しい評価法を開発しました。お客様の製造条件で精度の高い評価を行うために、お客様の成形機から直接ガスを収集し分析評価を行うことや、当社で評価に最適な条件をつくり、お客様の製造工程を反映した分析評価を行うことも可能です。こうした評価結果を基に、成形条件や金型のゲートの形状設計などの観点から、成形時のガス発生とガスによる製品不良を減らすための具体的な提案をお客様に行います。
このように、これらの予測解析技術や評価法は、お客様の製品開発工程の廃棄物を削減することはもちろんですが、開発サイクルの短縮や、シミュレーション、生産時に要するエネルギー使用量の削減も可能にします。こうした技術支援を通して、環境負荷低減に向けたお客様の製品開発にさまざまな選択肢を提案していきます。