近年、製品のバイオマス化へのニーズがますます高まっています。当社は2021年度にバイオマス由来の素材を活用したbG-POMの製造を開始しましたが、今年度はバイオマス由来の素材を活用した製品第二弾としてLCPをご紹介します。
LCPは、タブレット端末やスマートフォンなど、小型化が進む最新IT機器の超小型精密コネクタに多く利用されています。この度、LCPの原料となるキーモノマーの1つをバイオマス由来の素材に切り替えることが可能となりました。
これは、当該モノマーを製造する当社グループ会社にて循環型原料のサステナビリティ認証を取得したことによるものです。今後はバイオマス由来の原料を含むサステナブルな原料を使用したLCPの販売を予定しています。
バイオマス由来の素材を用いると、植物が大気から吸収していたCO2と製品を廃棄する際に出るCO2排出量が相殺されるため、実質的に大気中のCO2増加を抑えることが可能です。バイオマス由来の素材の積極的な活用は、循環型社会の実現に大きく貢献します。
また、当社ではLCPの製造工程においてもさらに省エネに貢献する設備を導入していく予定で、カーボンフットプリントという観点からも環境に優しいLCPを目指しています。
近年では、5Gなどの次世代高速・大容量通信を支える基板材料としてもLCPの用途は広がってきています。当社はこうした将来のニーズに応えていくとともに、ダイセルグループの力を結集し、他のモノマーもバイオマス由来のものにし「100%バイオマス由来のLAPEROS® LCP」の販売を目指しています。
当社は 、LCPだけでなく、当社のすべてのエンプラを環境に配慮したもの(製造時のGHG削減、バイオマス化、リサイクル対応など)にし、エンプラのリーディングカンパニーとして持続可能な社会の実現を推し進める包括的な環境ソリューションを提供していきます。
PPSは耐熱性や耐薬品性に優れており、自動車のエンジン周辺部品やPHEV/EVの電装部品、スマートフォンなどの部品に採用されています。近年、部品の小型化・軽量化の要求を満たすため、樹脂と金属を一体成形する方法が主流となってきていますが、当該成形の場合、金属部と樹脂部の線膨張率の違いによって温度変化時に樹脂が割れる可能性があるため、樹脂にはそれを防ぐ高い耐ヒートショック性(以下「耐HS性」)が求められていました。
従来、耐HS性を発揮するためには、PPSにエラストマーを添加剤として加えることが一般的でした。しかし、樹脂成形時にエラストマーにより発生するガスが、充填不良や成形品焼け、モールドデポジット※などのさまざまな不具合を引き起こしてしまうことが課題になっていました。
この課題を解決すべく、当社はエラストマーを用いず耐HS性を実現できる新PPSグレード(1140HS6)を開発しました。これにより成形時のエラストマー由来のガス発生が低減され、モールドデポジットや成形不良の削減につながります。また、再成形時にもガス発生の心配がないため、お客様の工程内でのリサイクルをより容易にすることができます。
※射出成形時に金型表面や隙間、パーティングラインなどに付着する堆積物
エラストマーが含まれている樹脂の場合、リサイクルによる再成形時にも再度ガスが発生する可能性がありますが、1140HS6は再成形時にガスが発生する心配がありません。このため、リサイクル樹脂の成形性や品質に対する不安が解消され、お客様の工程内でのリサイクルをより容易にすることができます。これにより、更なる環境負荷低減効果が期待できます。
エラストマーレス樹脂の開発は、今後ますます強まるお客様のリサイクルニーズに応える、画期的なエンプラソリューションです。当社は今後も、機能性と環境性を両立した高付加価値な樹脂開発に取り組みます。
医療・ヘルスケア市場では、信頼性の高いサプライヤーによる高品質な材料が求められます。当社は、これまで高純度のTOPAS® COC材料を長年医療・ヘルスケア市場に提供してきましたが、2023年度より新たに医療用POM(DURACON® PMシリーズ)を事業化し、医療業界におけるエンプラのニーズにより広く応えられる体制を整えました。
POMは摺動性やバネ性、耐薬品性に優れていることから、PMシリーズもその特性を活かしてインシュリンペンのダイヤル、吸入式インヘラー、医療用クリップなどに用いることができます。このような医療用材料にPOMが使用されることで、硝子や金属などの従来材料と比較して大量生産が容易になるとともに低コスト化が実現できるため、現代病ともいえる糖尿病患者の増加や新型コロナウイルス感染症などの呼吸器疾患の増加という近年の社会課題に対して貢献できると考えられています。
医療用POMは工程変更をしないこと、安定供給を継続することなど通常のPOMよりも厳しい供給条件が求められます。また、各国の法規制はもちろんのこと、業界の厳しい品質要求水準を満たすことも求められ、これまでの当社グレードをはるかに上回る品質管理が必要です。そのため品質保証部門、研究開発部門、生産部門、営業部門、コーポレート部門、製造拠点であるマレーシアのクアンタン工場が一丸となって、要求に応えられる生産および供給体制を整えました。
特にクアンタン工場では、2016年度にPMシリーズを生産するための作業標準書や管理基準を作成して客先要求に適合する生産体制を整えるとともに、一連の製造工程における製品への異物混入対策の強化、倉庫を含めた害虫管理の徹底も進めてきました。その結果PMシリーズは、世界でも品質規格が厳しいとされる欧米の医療機器メーカーが求める主要な規制に適合しています。
今後は投薬器具に加え、カテーテル、手術用器具部品など医療用POMの用途を着実に広げ、より一層世界の医療に貢献し、人々の健康で豊かな暮らしを支えていきます。